ゴミ屋敷問題は、単にその物件の住人や隣接住民だけの問題に留まらず、「地域全体」の公衆衛生に深刻なリスクをもたらす可能性があります。その不衛生な環境が、病原体や害虫の発生源となり、広範囲にわたって健康被害を引き起こす脅威となるからです。まず、ゴミ屋敷で大量発生する「害虫・害獣」は、地域の公衆衛生にとって大きな脅威です。ゴキブリ、ハエ、ネズミ、ダニといった害虫・害獣は、ゴミの山を拠点として繁殖し、やがてマンション全体や近隣の住宅、さらには公共の場所へと活動範囲を広げていきます。これらの害虫・害獣は、サルモネラ菌、O-157、赤痢菌などの食中毒菌、あるいはレプトスピラ症、ハンタウイルス感染症といった様々な「感染症」の病原体を媒介します。ゴミ屋敷の不衛生な環境で汚染された病原体が、害虫・害獣を介して地域住民の口に入ったり、皮膚に付着したりすることで、感染症が集団発生するリスクが高まります。特に、免疫力が低下している高齢者や乳幼児、基礎疾患を持つ人々にとっては、重篤な健康被害に繋がる可能性もあります。次に、「悪臭の広がり」も地域全体の公衆衛生に影響を与えます。ゴミ屋敷から発生する強烈な悪臭は、大気中に拡散し、周辺地域の空気質を悪化させます。この悪臭は、地域住民の精神的なストレスを増大させるだけでなく、喘息やアレルギー症状を悪化させる可能性も指摘されています。また、ゴミ屋敷に溜まった水やゴミから発生するカビや細菌の胞子は、空気中に飛散し、広範囲にわたってアレルギー反応や呼吸器疾患を引き起こす原因となることもあります。さらに、ゴミ屋敷が地域社会の「景観」を損ねることで、地域全体の衛生意識が低下し、他の住民によるゴミの不法投棄を誘発するなど、地域環境全体の悪化に繋がりかねません。このように、ゴミ屋敷は、その物件の内部だけの問題ではなく、地域全体の公衆衛生と住民の健康を守る上で、早急に対処すべき重大な課題なのです。