ゴミ屋敷問題が年々深刻さを増している背景には、精神医学的な知見の広まりと共に明らかになってきた「ホーディング障害(強迫的貯蔵症)」という疾患の存在があります。かつては単なる片付けられない性格や怠慢として片付けられていた現象ですが、実際には脳の機能的な障害や心理的なトラウマが密接に関わっていることが判明してきました。ホーディング障害の主な特徴は、実際の価値に関わらず物を捨てることに激しい苦痛を感じ、その結果として居住空間が生活機能を果たせないほど物で埋め尽くされることにあります。この疾患が増加している理由の一つとして、現代の過剰な消費社会と物の溢れ方が挙げられます。安価で魅力的な商品が溢れ、スマートフォン一つで24時間いつでも買い物ができる環境は、収集癖や買い物依存を助長し、部屋への流入量を飛躍的に増大させました。一方で、入ってくる量に対して、ゴミの分別ルールの複雑化や、粗大ゴミの有料化・予約制といった排出のハードルが高まっていることも、ゴミを溜め込みやすくする要因となっています。特にADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害を抱える人々にとって、物の要不要を判断し、計画的に分類して捨てるという作業は、極めて高度な脳の実行機能を必要とします。ストレスフルな現代社会において、これらの脳の機能が限界を迎え、部屋の管理が不可能になるケースが後を絶ちません。また、幼少期の喪失体験や、大切な人との離別といった深い心の傷を、物を所有することで埋め合わせようとする心理的防衛反応も、捨てられない大きな理由となります。彼らにとって、物は単なる物体ではなく、自分の一部、あるいは安心感の依代であり、それを捨てることは自分自身を損なうような感覚を伴います。医療や福祉の現場では、ゴミ屋敷を単なる環境問題ではなく、メンタルヘルスの課題として捉える動きが強まっていますが、本人の自覚の乏しさや社会的な偏見が壁となり、適切な治療や支援に繋がりにくい現状があります。ゴミ屋敷の増加は、私たちの心の脆弱性が、物質的な豊かさという形で逆説的に浮き彫りになった結果とも言えるでしょう。物理的な清掃と並行して、認知行動療法などの専門的な治療や、本人の自己肯定感を高めるための心理的サポート体制を社会全体で整えていくことが、この現代病とも呼べるゴミ屋敷問題を解決するための鍵となります。
精神疾患としてのホーディング障害と現代的な増加要因