ゴミ屋敷の住人にとって、避けて通れない「強制的な来客」の代表格が、消防点検、排水管清掃、ガス点検などの定期メンテナンス業者です。これらは賃貸物件やマンションに住む限り、法的な義務や建物の維持管理のために拒否することが難しく、住人を絶望の淵に突き落とします。友人や親戚なら嘘をついて断ることもできますが、業者の場合は「点検を拒否すると事故が起きた際に責任を問われる」「管理会社から強制的な呼び出しがかかる」というプレッシャーがあるため、逃げ場がありません。住人は点検日の数週間前から、パニック状態で対策を練り始めます。ゴミ屋敷における「点検業者対策」の基本は、点検箇所までの「道」を作ること、そして「点検箇所そのもの」を露出させることです。例えば火災報知器の点検なら、天井の感知器の下にあるゴミを四方に押し除け、業者が脚立を立てるスペースを確保します。排水管清掃なら、シンクの下や洗濯機周りのゴミをすべて別室へ移動させなければなりません。この作業は、住人にとっては死に物狂いの重労働となります。また、業者は多くの部屋を回っているプロであるため、多少の工夫では「ゴミ屋敷であること」は一瞬で見抜かれます。住人は「点検員にどう思われるか」という恥辱に耐えながら、作業中の数十分間、針のむしろに座るような思いで過ごします。中には、あまりの恐怖に耐えきれず、点検当日に居留守を使ったり、点検を妨害したりする住人もいますが、それは管理会社への不信感を高め、最終的には「ゴミ屋敷調査」としての立ち入りを招くという藪蛇な結果になります。強制的な来客は、住人にとってはこの上ない苦痛ですが、実はこれが「ゴミ屋敷脱出の最後のチャンス」になることもあります。他人の目に晒されるという衝撃(ショック)が、自力での片付けや業者への依頼を決意させる引き金になるからです。点検という名の「外圧」がなければ、ゴミ屋敷は死ぬまで放置されていたかもしれません。業者という来客は、住人にとっては忌むべき存在ですが、建物の安全と、住人の社会的な更生を繋ぎ止める、細いけれども強固な鎖でもあるのです。