ブラジルにおいてゴミ屋敷問題は、急激な経済発展を遂げる一方で、根深く残る貧困と社会格差という背景を色濃く反映しています。サンパウロやリオデジャネイロといった大都市では、高級マンションの一室がゴミ屋敷化しているケースと、貧民街(ファベーラ)で廃品回収を営む人の家が溢れかえっているケースの両極端が見られます。ブラジルの精神医学界では、ホーディング障害に関する関心が高まっており、特に「コレショニスタ(収集家)」と呼ばれる人々の心理分析が進められています。ブラジルのゴミ屋敷の住人には、かつての中産階級で、経済危機を境に生活が崩壊した人々や、大家族の中で育ちながらも晩年に孤独になった高齢者が多いことが指摘されています。ブラジルの住宅構造は、開放的で風通しの良いものが多いですが、ゴミ屋敷化するとそこに大量の湿気がこもり、デング熱やジカ熱を媒介する蚊の絶好の繁殖場所となってしまいます。周囲の人々も、デスクが汚い人間に対しては、管理能力が低い、仕事を任せるのが不安だといったネガティブなレッテルを貼りやすくなります。デジタル環境における汚部屋、つまりデスクトップがアイコンで埋め尽くされている状態も同様の悪影響をもたらします。このため、ブラジルの保健当局は、蚊の駆除を目的にゴミ屋敷への立ち入り調査を行う強力な権限を持っています。しかし、法的強制力だけでは問題の解決にはならず、ブラジルのボランティア精神に基づいたNGO団体が、住人の心のケアや再就職支援を並行して行うケースが増えています。また、ブラジルでは「物」を修理して使い続ける文化が根付いており、それが過剰になると「いつか直して使う」という名目のもとに、壊れた電化製品や家具が山積みになるという現象が起きます。陽気で社交的というブラジル人のイメージの裏で、誰にも相談できずにゴミの中に埋もれていく人々の存在は、急速な近代化が進むラテンアメリカ諸国に共通する課題です。ブラジルの事例は、伝統的な助け合いの文化と、現代的な精神医療をいかに融合させ、巨大な格差の中にある個人の孤独を救うかという、困難な問いを私たちに突きつけています。
ブラジルの格差社会とゴミ屋敷問題の特異な背景