ゴミ屋敷において、住人の健康や精神を最も直接的に攻撃し、生活を地獄へと変える要因が、ゴミを餌として繁殖する害虫や害獣の大量発生です。放置された生ゴミ、食べ残し、排泄物、そして長年動かされていない荷物の山は、ゴキブリ、ハエ、ダニ、さらにはネズミといった生物にとっての「楽園」となります。これらの害虫・害獣が住人に与える悪影響は多岐にわたり、まず第一に「感染症の媒介」が挙げられます。ゴキブリは下水やゴミの中を這い回り、その脚についた細菌やウイルスを食器や寝具に撒き散らし、食中毒や赤痢などの原因となります。ネズミは尿を通じてレプトスピラ症などの重篤な病気を運び、またその糞はアレルギー反応を誘発する強力なアレルゲンとなります。ダニの大量発生は、夜間の痒みによる深刻な不眠や、皮膚の化膿、喘息の悪化を招き、住人の身体を24時間体制で攻撃し続けます。次に、精神的な苦痛も無視できません。寝ている間にも虫が這い回る気配、壁の裏から聞こえるネズミの足音、至る所に残された糞。これらの不快な刺激は、住人の神経を休まる暇もなく擦り減らし、強迫観念や幻覚、パニック障害を引き起こす原因となります。さらに、害虫・害獣は建物そのものにも物理的なダメージを与えます。ネズミが電気コードを齧れば火災に直結し、断熱材を巣にすれば家の断熱性能が失われます。ゴキブリやハエが近隣に流出すれば、地域住民との深刻な紛争を招き、社会的な孤立を決定的なものにします。特に夏場においては、ゴミから出る腐敗臭と害虫の死骸の臭いが混ざり合い、一般人では数分も耐えられないほどの凄惨な環境となります。このような環境に慣れてしまうこと、つまり「不潔さへの麻痺」こそが、人間としての尊厳が崩壊し始めている証拠であり、ゴミ屋敷が及ぼす最も恐ろしい精神的変容の一つです。害虫・害獣の影響を排除するには、単に薬剤を撒く程度では不十分で、その根源であるゴミを完全に撤去し、住環境を根本からリセットするしか道はありません。不潔な生物と共存する生活は、人間が人間らしく生きるための誇りを奪い、生命そのものを汚染していく行為なのです。