イタリアにおいてゴミ屋敷問題は、中世からの歴史を持つ古い街並みや、文化遺産としての価値がある建物をいかに守るかという、この国ならではの視点から議論されることが多いと言われています。ローマやフィレンツェ、ヴェネツィアといった都市の歴史的中心部(チェントロ・ストリコ)にあるアパートメントでゴミ屋敷が発生すると、それは単なる一個人の不衛生な環境にとどまらず、建物全体の構造的な腐食や、歴史的な価値の毀損、さらにはネズミなどの害獣による衛生被害という、都市全体の危機として捉えられます。イタリア人の気質として、家族や友人との交流を非常に大切にしますが、その一方で、家族にさえ心を開かず、古い家具やガラクタを収集し続ける「エレーモ(隠遁者)」のようなゴミ屋敷住人も存在します。イタリアのゴミ屋敷の背景には、物を大切にする伝統的な文化が、変化の激しい現代社会に対する不安と結びつき、異常なまでの執着へと変容してしまったという分析もあります。法的には、イタリアの自治体は「オルディナンツァ(行政命令)」を発令し、公衆衛生の観点から住人に清掃を命じることができますが、歴史的建造物の場合は改修や清掃に特別な許可が必要な場合もあり、解決を遅らせる要因となっています。また、カトリックの影響が強いイタリアでは、貧しい人々や精神的に病んだ人々を教会が保護する伝統がありますが、ゴミ屋敷問題に関しては、宗教的な慈愛だけでは解決できない医学的な支援の必要性が叫ばれています。近年では、イタリア各地で「メッシー・アノニマス」のようなグループが結成され、心理学者や医師と連携しながら、住人が自ら不用品を手放せるよう支援する活動が広がっています。古いものを尊び、美を愛するイタリア社会において、ゴミ屋敷という「醜」の存在をどう受け入れ、改善していくかは、伝統と現代をいかに調和させるかというイタリア社会全体の課題とも重なり合っています。
イタリアの歴史的景観を脅かすゴミ屋敷と保存の葛藤