ある四月の爽やかな朝、大学卒業と同時に新社会人となる青年サトシは、四年間住み慣れたアパートを去る準備を進めていましたが、彼の心は爽やかさとは程遠い、ドロドロとした不安と後悔に支配されていました。荷物が次々と搬出され、段ボールが積み上げられていくたびに、サトシの視界に飛び込んできたのは、これまで家具やポスターで隠されていた「汚い現実」の数々でした。冷蔵庫の裏から現れたのは、いつの物とも知れない茶褐色の液体の跡と、カピカピに乾燥した正体不明の食品カスであり、洗濯機の下からは、大量の糸屑と埃が湿気を吸って粘土のようになった不気味な塊が露呈していました。サトシは愕然としました。引っ越し当日の朝、三十分もあれば部屋は綺麗になると思い込んでいた自分を殴ってやりたい衝動に駆られましたが、引っ越し業者のスタッフがテキパキと作業を進める中で、彼一人だけが呆然と立ち尽くしているわけにはいきません。彼は慌てて雑巾を掴み、床を擦り始めましたが、長年の放置によって蓄積された汚れは層を成しており、一度や二度拭いた程度ではビクともしません。さらに、業者のトラックが出発し、部屋に一人取り残された瞬間、静寂と共に現れたのは、想像を遥かに超える部屋の汚さと、立ち会いまで残り二時間という残酷なカウントダウンでした。サトシはパニックになり、キッチンのシンクに水を溜め、洗剤をぶちまけましたが、焦るほどに手元は狂い、水は床に溢れ、掃除は一向に進みません。壁についた黒いシミを落とそうと躍起になって擦りすぎたせいで壁紙が少し破れてしまい、彼はさらに絶望の深淵に叩き落とされました。「もうだめだ、敷金が全部消えるどころか、追加料金で何十万も取られる」という恐怖が脳内を駆け巡り、彼は泣きそうになりながら、それでも必死に床を這いずり回りました。結局、完全な清掃は叶わないまま管理会社の担当者が到着し、サトシは罪人のような心境でドアを開けましたが、その経験は彼に、二度と部屋を汚さないという強烈な教訓を刻み込みました。汚い部屋で迎えた引っ越し当日の惨劇は、彼の青春時代の最後を飾る、苦くて不潔な、しかし忘れられない物語となったのです。